サラリーマンの職場における悩みのひとつとして「上司・部下との関係」を挙げる人も多いのではないのでしょうか。

私も現在の部署のひとつ前の部署でパワハラ上司との関係性に悩み、社内のメンタルヘルスを受けたり、外部の心療内科を受診したりしていました。
上司との関係に悩んでいる中、ビジネス書を探しに本屋に行った際にこの本に出会いました。
自分が管理職になる前にぜひ一度読んでおきたい内容が盛り沢山でしたので、オススメ書籍として紹介させていただきます。
著者について
初めにこの本の著者のプロフィールについて簡単に触れておきます。
著者の大橋 高広(おおはし たかひろ)さんは株式会社NCコンサルティングの代表取締役社長で、大阪商工会議所人事労務サポート推進パートナー、八尾市や守口市、門真市、和泉市などの商工会議所専門相談員なども務めている人事評価制度、管理職育成、職場改善の専門家です。
2015年に株式会社NCコンサルティングを設立以降、約5年間で70社以上のクライアント企業のスタッフへ直接面談を実施、ヒアリングしたスタッフの総数は1,200名を超える職場の問題に精通した人事のプロです。
「中小企業が元気になれば、日本が元気になる」
を信条に、コンサルティング・研修・セミナー・講演を全国各地で行なっている方です。
なぜ「職場の問題」は解決できないのか?
日本の職場には、リーダーシップのある上司は少ない
そもそも日本の職場には、リーダシップのある上司は少ないと言われています。
その理由は、管理職に昇格する経緯と、企業の人材育成に対する考えに問題があるためだと述べています。
- マネジメント適性ではなく、実務の能力や成果を評価されて管理職に昇格したから
- OJTを含め、実務の研修は数多く受けているが、上司になるにあたっての研修は受けていないから
- 企業は、若手社員とシステム導入には投資するが、職場の要となる管理職には投資しないから

この3つはほとんどの会社に当てはまっているのではないでしょうか。
私が勤務している会社も3つとも見事に当てはまっています。
上司の仕事を遂行する力を身につける「方法」と3つのステップ
上司の仕事を遂行するためには、以下の手順が重要だと述べています。
- 職場の問題の真因を把握するために、部下の本音を聞き出す(これが最も大事!)
- 部下に不利な影響が出ないように、聞き出した情報を社内で共有する
- 部下の同意と会社の許可を得た上で、具体的に職場を改善する
最初のステップかつ最も大事なことは「部下の本音を聞き出すこと」です。
では、どうすれば部下の本音を聞き出せるのか、それは「部下に”信頼”されること」です。
部下との信頼関係は、強力なリーダーシップがなくても築くことができます。
※そもそも「リーダーシップ」というのはただの精神論で、具体的な方法を示したものではありません。
そして、部下に”信頼”されるために欠かせないのが、コミュニケーションです。
本書の結論になりますが、職場の本当の問題を知り、改善するために必要なのは、「ツール」や「ノウハウ」の前に、管理職を起点にした職場内の「コミュニケーション」です。
部下の成長の5ステップ
部下、しいては人の成長に関しては「成長の5ステップ」という考え方があります。
- STEP①:知る 上司が部下に説明する。部下に研修を受けてもらう
- STEP②:わかる 理解した内容を部下に話してもらうなどの確認作業を行う
- STEP③:行う 部下が行動するときは、積極的に動けるように後押しをする
- STEP④:できる 上司の補助なしで行動し、結果を出すことができる
- STEP⑤:分かち合う 自分が出来たことを説明したり、他の人へ教えたりする
これを踏まえた上で、上司は「①~③までをフォローする」ことが重要であると述べられています。

実際にやってみる場や機会を提供しなければ、部下はできるようにはならないということですね。
なぜ職場の風通しの悪さは見えないのか
本書でいう「風通しの悪い現場」とは「自由に発言できない現場」のことを言います。
では、自由に発言できない現場とは具体的にどのような現場か、以下の例をご覧下さい。

Aについてみんなの考えを聞きたい。
屈託のない意見が欲しいから、自由に意見を述べていいよ。

Aは現状こういう問題があると思います。

なるほど。では次回までにこの方針の対案を出してくれないか。

えっ、はい…。分かりました。
(自由に述べていいって言ったから気軽に言っただけなのに…)
このような経験をしたことがある人も多いのではないでしょうか。
「自由に意見していい」と言っておきながら「対案を出せ」と言われる最悪なパターンです。
必ず対案を求められる環境では、人は自由な意見ができないものです。
このような職場では、 先ほど述べた「上司の仕事を遂行するための3つのステップ」の1つ目である 「部下の本音を聞き出す」ことが出来なくなり、報連相が機能しなくなります。
職場の問題を「聞き出す」技術3選
ここからは、本書で紹介されていた「聞き出す」技術10選のうち、私に刺さった技術3選を紹介します。
社内アポイント法

×:今からちょっと面談できる?
×:30分後に面談したいんだけど、空いてる?

はい。大丈夫です。
(また面倒なことを言ってきたぞ…)
部下がこのように感じる環境では、生産的な話し合いはできません。
予めアポイントを取らずに面談を始めると、部下は「やらされ感」を感じると言います。
ではどういうアポイントの取り方がいいのか、本書で提案されている例は、

〇〇という目的で面談をしようと思うんだけど、都合のいい時間と場所を教えてくれるかな?

はい。●●時以降なら大丈夫です。
(〇〇について面談するならあれについて相談しよう。)
この提案例を見て、「事前に面談の目的を伝え、相手に話す内容を準備する猶予を与える」ことが大切だと私は理解しました。
また、面談のタイミングは日時を固定化するのが望ましいと述べられています。
例えば、毎日10分でも定期的に面談をして接点をつくっておくと、確実に信頼関係を構築しやすくなるようです。
これを「単純接触効果(ザイアンスの法則)」と言います。
上司沈黙法
部下との面談において、できる上司ほど自分が一方的に話してしまう傾向があり、その理由は、部下の悩みを解決する方法がすぐに分かってしまうからだそうです。

これに関しては個人的には少し疑問です。
一方的に話す人は、ソーシャルスタイル理論でいうドライバータイプな上司なだけで、「解決方法がすぐに分かってしまう」というのとは少し違うのではないかと思います。
このような傾向を踏まえ、とにかく上司は質問だけして黙っておくことに徹することが重要だと述べられています。
部下には問題を解決したいニーズもあるが、悩みを聞いてほしいというニーズもあることを忘れない。
面談時間無制限法
部下の本音を聞き出すときには、あえて時間制限を設けないことが大事です。
時間が制限されると、考える時間を取ることや、本筋とは外れているものの有用な雑談がしにくくなります。
実は、こうした雑談の中に部下の悩みや改善のヒントがかなり隠されています。
職場の問題を「改善する」技術2選
ここからは、本書で紹介されていた職場の問題を「改善する」技術8個のうち、私に刺さった技術2選を紹介します。
スタッフのトリセツ
職場を改善する技術の1つ目は、スタッフひとりずつの取扱説明書(トリセツ)を作成することです。
トリセツと言っても、家電製品の説明書のように詳細に記載したものではなく、以下の5項目程度で十分です。
- 仕事をする上で大切にしていること:相互理解が深まり、仕事の生産性向上に役立つ。
- 仕事中にイラっとすること:日々の「イラッ」の積み重ねが信頼関係に悪影響を与えている可能性が高い。
- 得意なこと:職務を超えたものでもOK。
- 苦手なこと:周りからの配慮が得やすくなる。
- 将来実現したい目標:仕事の割り当てや教育方針などを最適化できる。
やめる業務ミーティング
職場を改善する技術の2つ目は、やめる業務を決めるミーティング(やめる業務ミーティング)を実施することです。
やめる業務ミーティングは、「ECRSの原則」に基づいて実施すると効果的です。
- ①排除(Eliminate)省略できる無駄な業務はないか? 例:過去からの経緯だけで実施している業務
- ②統合(Combine)他の業務とまとめることができる業務(重複業務)はないか?
- ③再編成(Rearrange)やり方、担当者などを変更できないか? 例:機械化、システム化、アウトソーシング
- ④簡素化(Simplify)今、実施している業務をもっと単純にできないか?
また、ECRSの原則で重要なのは、「①→②→③→④の順番を厳守すること」です。
上から「改善しろ」と言われると、最初から「④簡素化(Simplify)」に取り組もうとするものです。

実際、スタッフの立場で実践できるのは「④簡素化(Simplify)」くらいなため、仕方がない側面もありますが。
すると元々の業務に、業務を簡素化するための活動がプラスされるため、職場が疲弊して挫折する可能性が高くなります。
そのため、上司が率先して「①排除(Eliminate)」を進めることが成功のカギとなります。
この「やめる業務ミーティング」を半年に一度のペースで継続することで劇的に業務量が減り、生産性向上に繋がります。
上司の仕事を「改善する」技術2選
ここからは、本書で紹介されていた上司の仕事を「改善する」技術9個のうち、私に刺さった技術2選を紹介します。
「人事評価」を改善する
会社によって多少の違いはありますが、人事評価には定量評価と定性評価の2つの評価基準があります。
定量評価とは
- 「売上を前年度比〇%上げた」
- 「〇件契約できた」
のように、判断材料となる成果が明確なので公正に評価されやすくなります。
定性評価とは、会社から与えられた材料とルールに従って上司の感覚で評価されるため、評価がバラつきやすくなります。
評価者としての研修を受けてもいない状況で、定性評価がバラつくのは当然の結果と言えます。

君は〇〇の時、●●をしていたから評価は4です。
といったように、評価事実(人事評価の対象となる事実)とそれに対する評価を明確に伝えれば部下は納得します。
そしてこの評価事実を述べるためには、上司は部下の仕事ぶりを観察し、具体的な記録に残しておく必要があります。
もしくは月次で面談を実施し、評価事実を収集し、記録する必要があります。
「会議」を改善する
2つ目の改善は、会議の改善です。
具体的には「ムダな会議をやめる」ことです。
ここでいう「ムダな会議」とは「意見の出ない会議=単なる報告会」のことを指します。
では、ムダな会議にしないためにはどうすれば良いのか。
その答えは、「何を発言しても否定されない」という心理的安全性が担保された状態で会議を行うことです。

この「心理的安全性」という概念は、Googleが4年間調査した「プロジェクト・アリストテレス」において「チームパフォーマンスの決め手になる重要な要素」として挙げられています。以下の書籍でもその重要性が述べられています。
まとめ:上司の成長なくして職場の問題解決なし
今回は、 大橋高広著『リーダーシップがなくてもできる 「職場の問題」30の解決法』の内容について紹介しました。
この本の要点を簡単にまとめると以下のようになります。
- 日本の職場にはリーダーシップのある上司は少ない
- 職場を改善するために必要なのはツールやノウハウではなく、管理職を起点にした職場内のコミュニケーション
- 強力なリーダーシップがなくても、部下との信頼関係を築くことで職場は改善できる
- リーダーシップとはただの精神論
- 会社全体をいきなり変えるのは難しい。まずはチーム単位で実行してみる。
また本書の特長として、「そこで提案したいのが、…という方法です。」といったように、すべての項目において著者の提案例や具体的なメソッドが掲載されています。
「言っていることは分かるけど、具体的にどうすればいいのか分からない。」
とならないような構成になっており、非常に良本だと思います。
基本的には上司目線で書かれていますが、部下の立場としても非常に有益な内容が述べられていました。
個人的には、
- 職場内のコミュニケーションによって部下に”信頼”されること
- やめる業務ミーティング
- 「人事評価」を改善する
- 「会議」を改善する
このあたりの内容を知ることができただけでもこの本を買って読んでよかったと感じています。
今回の記事を見て、自分も読んでみたくなった方は以下のリンクからどうぞ。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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