今回は全塑性モーメントに関する問題の中で、「崩壊機構から断面力を求める問題」について解説します。
- 梁の曲げモーメントとせん断力の関係
- 梁のせん断力と柱の軸力の関係
など、構造力学についてある程度の理解が必要なので、慣れるまでは少し難しく感じるかもしれません。
そこで本記事では以下の3ステップで、一級建築士の構造力学の問題を解くために最低限必要な知識に厳選して解説します。
- 崩壊機構から断面力を求める問題を解く上でおさえておくべき予備知識4選
- 基本的な解き方5ステップ
- 実際の過去問の解き方
ぜひ最後までお読みください。
おさえておくべき予備知識4選
過去問を解く前に、おさえておくべき予備知識を4つに厳選してお伝えします。
毎回必ず使う知識な上に、他の問題でも役に立つ内容ですので、確実におさえておきましょう。
予備知識①:仮想仕事の原理
予備知識のひとつ目は、前回の記事で解説した「仮想仕事の原理」です。

「仮想仕事の原理って何?」という人は前回の記事をご覧ください。
予備知識②:力のつり合い式
予備知識のふたつ目は、「力のつり合い式」です。

力のつり合い式についても、以前のトラスの回で詳しく解説しているので、そちらもご覧ください。
予備知識③:せん断力は曲げモーメントの傾き
3つ目の予備知識は、「せん断力は曲げモーメントの傾きである」ということです。
言い換えると、曲げモーメントを微分するとせん断力になります。
具体的にどういうことか、単純梁のせん断力と曲げモーメントの関係を例に確認します。

これらを見ると分かるように、曲げモーメントとせん断力との間には、以下のような関係性があります。
- 集中荷重の場合:曲げモーメントは一次関数、せん断力は0次関数(一定)
- 分布荷重の場合:曲げモーメントは二次関数、せん断力は一次関数
では次に、この関係性を「一級建築士の構造力学の問題にどう使うか」について解説します。
最も簡単な例として、1層のラーメン架構の柱頭に水平荷重 P が掛かる場合を例に、
- 梁の曲げモーメント
- せん断力
- 柱の軸力
これらの関係性を確認しましょう。

先ほども述べたように、せん断力は曲げモーメントの傾きなので、
「せん断力」=「曲げモーメントの増分」÷「スパン」
で求められます。
今回の例の場合、柱と梁のせん断力 Q1~Q3 は曲げモーメントと部材の長さを用いると以下のようになります。
- 柱のせん断力 Q1 = (M1 + M2) / L2
- 梁のせん断力 Q2 = (M2 + M3) / L1
- 柱のせん断力 Q3 = (M3 + M4) / L2
予備知識④:梁のせん断力は下階柱の軸力
必要な予備知識の最後は、「梁のせん断力は下階柱の軸力である」ということです。
先ほどの例で、梁のせん断力は縦方向の力です。
この縦方向の力は、縦方向の部材である柱にとっては軸方向の力、つまり軸力となります。
よって、左右の柱の軸力 N1, N3 は Q2 と等しくなります。
基本的な解き方5ステップを使って過去問を解説

ここからは基本的な解き方を5ステップで解説した後、実際に令和3年度の本試験を解いていきます。
崩壊機構から断面力を求める問題の基本的な解き方は、以下の5ステップです。
- 仮想仕事の原理から、崩壊荷重を求める
- 梁の曲げモーメントから、梁のせん断力を求める
- 梁のせん断力から、柱の軸力を求める
- 柱の軸力から、支点反力を求める
- 力のつり合い式から、柱のせん断力を求める

この5ステップを実際の過去問で確認していきましょう。

※以後、問題中の小文字の「l」は、見やすさを重視し、大文字の「L」で表記します。
手順①:仮想仕事の原理から、崩壊荷重を求める
まず初めにやることは、「崩壊荷重 P を求めること」です。

崩壊荷重 P は、それぞれの選択肢が適当か不適当かを判断する上でも必要になってくるので、最初に求めることをお勧めします。
崩壊荷重 P は、以前の記事でも解説したように以下の4ステップで求めます。
- 水平変位量 δ と変形角 θ を確認する
- 外力仕事量 P・δ を求める
- 内力仕事量 ΣMp・θ を求める
- 外力仕事量と内力仕事量のつり合いから崩壊荷重 P を求める
1. 水平変位量 δ と変形角 θ を確認する

2&3. 外力仕事量 P・δ、内力仕事量 ΣMp・θ を求める
- 外力仕事量:P・Lθ + P・2Lθ
- 内力仕事量:2×Mp(柱)・θ + 4×Mp(梁)・θ
4. 外力仕事量と内力仕事量のつり合いから崩壊荷重 P を求める
3PLθ = 6Mpθ ⇔ P = 2Mp / L
となるので、「3」は正しいということになります。
手順②:梁の曲げモーメントから、梁のせん断力を求める
次に、梁の曲げモーメント Mp から、梁のせん断力 Qb を求めます。
繰り返しになりますが、「せん断力」=「曲げモーメントの増分」÷「スパン」 なので、梁のせん断力 Qb は、
Qb = (Mp + Mp) / 2L = Mp / L
となり、「1」は正しいということになります。
手順③:梁のせん断力から、柱の軸力を求める
次に、梁のせん断力から、柱の軸力を求めます。
以降の解説を分かりやすくするために、下図のように記号をふっておきます。

手順③と同じく、2階の梁のせん断力 Qa は以下のように求められます。
Qa = (Mp + Mp) / 2L = Mp / L
「梁のせん断力は下階柱の軸力」なので、柱の軸力 N1、N2 は以下のようになります。
- N1 = Qb = Mp / L
- N2 = Qb + Qa = 2Mp / L
手順④:柱の軸力から、支点反力を求める
次に、柱の軸力 N2 から支点反力 V を求めます。
今回の場合、V = N2 となるので、「2」は正しいということになります。

1階の梁が存在しない場合、「支点反力V=1階柱の軸力NC」となりますが、
以下の問題のように1階の梁が存在する場合、「支点反力V=1階柱の軸力NC+1階梁のせん断力QC」となります。
手順⑤:力のつり合い式から、柱のせん断力を求める
最後に、力のつり合い式から、柱のせん断力を求めます。
左右の柱の剛性(固さ)が同じ場合、水平力は左右の柱でそれぞれ半分ずつ負担します。
よって、水平方向の力のつり合い式を考えると、
- 水平外力:P + P = 2P
- 柱のせん断力:Qc + Qc = 2Qc
このふたつがつり合うので、
2P = 2Qc ⇔ Qc = P = 2Mp / L
となるため、「4」が最も不適当な記述ということになります。
まとめ
今回は全塑性モーメントに関する問題のうち、「ラーメン架構の崩壊機構から断面力を求める問題」について解説しました。
たまに全塑性モーメントとは関係なく、ただのラーメン架構の応力状態から断面力を求める問題も出題されますが、考え方は全く同じです。
次回は全塑性モーメントに関する問題の最後のパターンである「応力度を求める問題」について解説します。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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