今回は、学科Ⅳ:建築構造の1問目に出題される「曲げと圧縮を受ける柱の応力度に関する問題」について解説します。
この問題はほぼ毎年、以下の2パターンのどちらかが出題されます。
- 弾性時の柱の応力度
- 全塑性時の柱の応力度
そこで本記事では、これらの問題を解く上で必要となる予備知識とそれぞれの解法をまとめて解説していきます。

基本となる軸応力度、曲げ応力度、せん断応力度の求め方から全塑性時の応力度分布まで丁寧に解説しますので、最後までご覧下さい。

必要な予備知識
はじめに、この問題を解くために必要な予備知識をまとめておきます。
分かりやすいように、以下のような2つの集中荷重を受ける単純梁を例に考えていきます。

応力の算出
まずは梁に生じる軸力、せん断力、曲げモーメントをそれぞれ求めていきます。
途中の計算は省略しますが、各応力は以下のようになります。

反力や応力の求め方は以前トラスの記事でも詳しく解説しているので、理解できなかった方はそちらもご覧ください。
応力度の算出
次に、求めた応力と断面形状から、梁の各応力度を求めます。
軸応力度 σc (or σt)


軸応力は部材の軸方向に作用する力で、断面に均等に分布します。
軸圧縮応力度 σc もしくは軸引張応力度 σt は以下の式で求められます。
σc (or σt) = N / A
N は梁に生じる軸力、A は梁の断面積です。
先ほどの例題の場合、圧縮軸力 P2 が作用しているので、軸圧縮応力度 σc は、
σc = N / A = P2 / (b・h)
となります。
曲げ応力度 σb

つづいて曲げ応力度 σb について解説します。
最も基本となる「(1)弾性時の曲げ応力度 σb」 は、以下の式で求められます。
σb = M / Z
M は梁に生じる曲げモーメント、Z は梁の断面係数です。
断面係数 Z は梁の曲げ応力度を求める際に必要な係数で、矩形(くけい)断面、つまり長方形断面の場合は以下の式で求められます。
Z = b・h2/6
b は荷重に対する梁の幅、h は荷重に対する梁の成です。

「荷重に対する」ってどういうこと?

b と h は荷重の方向によって変わります。
荷重と同じ方向が h になります。
曲げと軸力の組合せ応力度
ここまでで軸力と曲げそれぞれについては理解できたと思います。
ですが、ほぼ毎年問われるのは「曲げと軸力の組合せ応力度」です。
先程の例で言うと、最大圧縮応力度は「曲げ圧縮応力度 M/Z+軸圧縮応力度 N/A」となります。
これに対し、最大引張応力度は「曲げ引張応力度 M/Zー軸圧縮応力度 N/A」となります。

この内容は超重要なので、必ず理解しておきましょう。
図で示すと以下のようになります。

せん断応力度

せん断力とは、四角い部材断面を平行四辺形にしようとする力です。

紙を切るときにハサミを使いますが、ハサミはこのせん断力によって紙を切断しています。
軸応力度とは異なり、せん断応力度は断面の高さ方向の応力度分布が一定ではありません。
具体的には上記の図のように、せん断応力度は断面の縁で0、断面の中央で最大値を取ります。
最大せん断応力度 τmax (タウマックス)は以下の式で求められます。
τmax = κ・Q/A
κ(カッパ)は形状係数、Q は梁に生じるせん断力、A は梁の断面積です。
形状係数 κ は、
(最大せん断応力度 τmax)÷(せん断力 Q を断面積 A で割った平均せん断応力度 τ0)
で求められます。

形状係数 κ は断面の形によって値が異なります。
とりあえずは矩形(長方形)断面の形状係数「κ = 1.5」だけ覚えておけば問題ありません。
弾性時の柱の応力度

ここからは、弾性時の柱の応力度に関する問題を実際に解いていきます。

各応力度について1問で確認できる問題として、令和3年度の一級建築士試験の本試験を採用しました。
まずは応力度の前に柱に生じている応力を求めます。
柱脚の曲げモーメントと軸力の値は以下のようになります。


曲げモーメント M = P×L というのは、以前「覚えるべき公式」として取り上げた片持ち梁の公式です。
まだ公式が頭に入っていない人は、以下の記事で覚えるべき公式13選を厳選したのでそちらもご覧ください。
次に、柱の軸応力度を求めるために必要な柱の断面積 A を求めます。
柱の幅 b は200mm、柱の成 d は300mmなので、断面積 A は、

となります。
つづいて、曲げ応力度を求めるために必要な柱の断面係数 Z を求めます。
外力 Q に対しての柱の成方向 d は300mmより、b = 200mm、d = 300mmとなるので、断面係数 Z は、

となります。

これで準備は完了です。
ここから各応力度を求めていきます。
設問にも記載があるように、引張応力度は「+」、圧縮応力度は「ー」で表現します。
最大圧縮応力度は「曲げ圧縮応力度 M/Z+軸圧縮応力度 N/A」なので

となります。
最大引張応力度は「曲げ引張応力度 M/Zー軸圧縮応力度 N/A」より、

となります。
次に最大せん断応力度ですが、
- 「最大せん断応力度 τmax = κ・Q/A」
- 矩形(長方形)断面より「形状係数 κ = 1.5」
より、最大せん断応力度 τmax は以下のようになります。

以上より、正解は「2」となります。
全塑性時の柱の応力度

次に、全塑性時の柱の応力度に関する問題を解説します。
例として、令和2年度の本試験を引用します。
先ほどと同じように、まずは柱脚の曲げモーメントを求めます。
柱脚の曲げモーメント M は先ほどと同じで、M = Q・h となります。

つづいて応力度についてですが、考え方を1枚の画像でまとめました。

【この問題の考え方】
まず柱に曲げモーメントについて考えます。
曲げモーメントによる引張合力 T と圧縮合力 C は断面中心(中立軸)を軸に対称(偶力)なので、圧縮応力度の範囲 3a のうち、「引張応力度と同じ範囲=縁から a の範囲」は曲げモーメントにより生じた応力ということになります。
言い換えると、残り 2a の範囲が軸力により生じた応力ということになります。
つまり「フランジで曲げ応力を負担し、ウェブで軸力を負担している」というのがこの問題の最重要ポイントです。

この考え方さえ理解しておけば、この問題はもう怖くありません。
曲げモーメント M は、偶力 C もしくは T に偶力間の距離 d を掛けることで求められます。

また、はじめに曲げモーメント M = Q・h であると分かっているため、

となり、水平荷重 Q は以下のように求まります。

鉛直荷重 N はウェブ(青色の範囲)で負担しているので、以下のように求められます。

よって、正解は「1」になります。
まとめ

今回は毎年1問目に出題される「曲げと圧縮を受ける柱の応力度に関する問題」について解説しました。
今回の記事のポイントを以下にまとめます。
- 軸応力度 σc or σt =軸力 N ÷ 断面積 A
- 曲げ応力度 σb = 曲げモーメント M ÷ 断面係数 Z
- 断面係数 Z = b・h2/6 ※荷重の方向が h
- 最大せん断応力度 τmax = 形状係数 κ (長方形断面なら1.5)・せん断力 Q / 断面積 A
- 曲げモーメントの偶力を基に、曲げモーメントを負担する範囲を確認する。
- 軸力を負担する範囲は、曲げモーメントを負担する範囲を除いた範囲である。
- 各応力を負担する範囲について、応力度と断面積から荷重の大きさを求める。
弾性時の応力度の問題は、間違える人はほぼいないくらいの超基本問題なので、確実にものにしましょう。
全塑性時の応力度の問題は、考え方を忘れてしまうと正解に辿り着くのは困難です。
上記にまとめたように、曲げモーメントの偶力を基に、
- 曲げモーメントを負担する範囲
- 軸力を負担する範囲
この2つを明確に分けることが正解へのカギとなります。
次回は3年に2回の頻度で出題されている「正しい曲げモーメント図を選ぶ問題」について解説します。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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